第四次川越市環境基本計画策定に向けた提言(案)

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2023年12月22日

第四次川越市環境基本計画策定に向けた提言

かわごえ環境ネット 理事長 小瀬博之

かわごえ環境ネットでは、2023年8月から12月にかけて、第四次川越市環境基本計画策定に向けた勉強会を4回、〇名のメンバーで開催してきました。その結果を「第四次川越市環境基本計画の策定に向けた行政への提言」として提出いたします。川越市は、この内容を考慮したうえで第四次川越市環境基本計画を作成していただくことを要望いたします。以下に、本提言の趣旨および重点項目を簡潔に記します。

脱炭素宣言の責任ある実行計画および実行体制

2020年10月に菅義偉総理大臣が2050年にカーボンニュートラルを目指すと宣言し、続いて2021年3月には川合善明市長が「小江戸かわごえ脱炭素宣言」を発しました。第四次川越市環境基本計画では、2050年に確実に脱炭素社会を実現するための着実で責任ある実行計画および実行体制を示す必要があります。今後25年でこの目標を実現するのは容易ではないうえに、2030年までの進捗度合が目標達成の成否を左右すると言われています。第四次環境基本計画がどの程度野心的な目標を掲げ、実効性のある計画と体制を示せるかという点に、川越市における目標達成の見通しがかかっていると言えます。市長と行政の真剣さが今こそが問われる、まさに中心課題です。 (施策体系案:環境目標1・大施策1に対応)

温暖化への適応策のみならず緩和策を

川越市のみならず埼玉県中心部では、他地域よりも急速に温暖化が進んでいます。熊谷地方気象台の年平均気温は、1900年から2020年にかけて2.5℃上昇しています。東京に林立する超高層ビルが海風の進路を変えていることがこの傾向を促進しているという説もあります。とはいえそればかりでなく、後述のような土地利用の変化によるヒートアイランド現象の影響もあるでしょう。2023年夏の日中の川越市中心部の猛暑が命に関わるレベルに達していたという事実は、記憶に新しいところです。このままでは子ども、高齢者を含む弱者が夏の日中に外出することが不可能になるだけでなく、観光客も減少するでしょうし、熱中症で倒れる観光客も出てくるでしょう。 暑さ対策として、学校校舎等へのエアコン設置が進んでいます。しかし断熱材の敷設を合わせて行っていないため、エネルギーの無駄を生んでいるだけでなく、建物の冷却効果も不十分にとどまっています。温暖化への適応策は費用対効果を重視して実施してください。 適応策と同時に、かわごえ環境ネットは温暖化の緩和策を実施することを要望いたします。緩和策にもさまざまありえる中、下に述べるように川越市において最重要なのが緑地、湿地、湧水、田畑の減少を食い止めることです。そのために市税や補助金等のあらゆる制度的な手段を用い、緑地面積の回復、私有地の緑化促進、アスファルト・コンクリート除去、生産緑地も含めた田畑の維持、田畑に従事する農業者の確保等を強力に推し進めてください。


緑地、湿地、田畑面積の確保

川越市の脱炭素および気温上昇対策において、さらに言えば水害等の災害対策において、最重要なのが、雑木林をはじめとした緑地、湿地、湧水、田畑の面積を確保することです。 現状では、これらの土地の面積は長期的に見て減少傾向にあります。2018年の樹林地は339haですが、1996年からの22年間、年平均8haの勢いで減少しています。最大で計11号あった市民の森も1998年以降相次いで計6号19,359㎡が指定解除となり、現在では計5号40,168㎡のみとなりました。それと並行して、2000年から2018年の間に田畑は約15%減少する一方で、宅地面積は約25%も増加し川越市の面積の30%以上を占めるようになっています。こうした土地利用状況の変化によってヒートアイランド現象が加速しています。 河川改修や貯水施設の設置は進んでいるものの、土地利用の変化に伴って土壌の保水・遊水機能が失われ、近年増加傾向にある短時間強雨時に処理能力を超える雨水が流れ込むことで洪水・内水氾濫の被害が頻発・激甚化する可能性が高まっています。一例を挙げると、新河岸川流域の水収支は蒸発量散32%、河川流出量43%、地下水涵養24%ですが、地下水涵養の割合を年間降雨量の3分の1(33%)に引き上げるべきであると「新河岸川流域水循環マスタープラン」には明記されています。新河岸川流域の中でも、川越市を含む不老川ブロックの涵養割合は17%とさらに低くなっています。市民の「水循環」の認知度が低いことも課題です。 緑地や河川や田畑は日差しを吸収し、地表と地下の間の水分の交流を促すことで、暑熱を和らげてくれます。それに対してコンクリートやアスファルトは日差しを照り返し、地表付近の気温を上げています。また、雑木林や緑地や田畑の減少により内水氾濫などの水害のリスクが増大しています。今後、住宅地の排水設備容量を上回る豪雨の発生確率が増大すると予想されている中、緑地や田畑の面積を確保しておくことは死活的に重要です。 相続によって緑地が失われている現状がありますが、その税負担を軽減するための施策の充実を要望します。

生物多様性の保全・回復

現在、川越市では急速に生物多様性が減少しています。正確な数値を出すことが困難なのですが、このこと自体が問題です。第三次環境基本計画には川越市版レッドデータブックの作成が盛り込まれているにもかかわらず、いまだ着手されているようには見えません。川越から姿を消した生物種の正確な数値を出すことはできませんが、多様な生物種の生息地が減少していることは確実に言えます。それは、上記のように樹林地、湿地、湧水、田畑の減少であり、宅地やコンクリート建造物の増大に他なりません。第三次環境基本計画で掲げた「武蔵野の面影を残す緑の保全」という目標を達成するための実行体制が形成されていないだけでなく、その作為に対する責任もあいまいにされています。 最優先事項として、川越市の生物多様性の約50%が保全されている(仮称)川越市森林公園計画地における緑地の持続可能な確保に向けた施策及び体制強化を強く要望します。 生物多様性の減少は、緑地、湿地、湧水、田畑等の減少と相関しています。多様な生物なしでは緑地も存続できません。これらの環境の確保が生物多様性の保全につながり、生物多様性の保全のための対策が環境の維持を可能にします。この観点からも、川越市にとって緑地、湿地、湧水、田畑等の保全は際立った重要性を帯びています。

環境のためにも農業振興

既述の通り、温暖化対策、水害リスク軽減といった観点においても田畑の果たす役割は重要です。しかし第一義的には田畑は、市民の食糧確保という本来の意味において欠かせません。食料生産・流通を全体として見たときに出す二酸化炭素排出量を「カーボンフットプリント」と言いますが、脱炭素を実現するためにはこの値を極力低下させる必要があります。それは、環境に配慮した農業と地産地消を通じて実現しますが、そのためには何よりも農業従事者の確保が欠かせません。学校給食の地場産化・有機化、市民の農業参加の促進等の施策を取り入れて、農業振興の優先順位を早急に上げる必要があります。

最優先課題は緑地と田畑を守ること

以上、行政とともに川越市の自然環境を20年にわたって観察してきたかわごえ環境ネットの知見に基づき、第四次環境基本計画策定に際して提言を提出する趣旨および重点項目について説明して参りました。 最重点項目は、緑地、湿地、湧水、田畑の減少を食い止めることであり、この課題を実現するためにあらゆる手段とそのための予算措置を講じることです。もちろん他にも極めて重要な項目は多々あります。しかし緑地や田畑の確保は、この点に失敗すれば川越市の2050年脱炭素社会の実現は不可能であるというほどに重要な項目である、というのがかわごえ環境ネットの認識です。 こうした取り組みは、世界的に注目される持続可能な観光地域づくり(エコツーリズム・エシカルツーリズム)にもつながり、経済にも良い循環をもたらすことが期待できます。 川合善明市長および行政担当者の責任ある対応を求めます。

施策体系との対応を取る「6.環境リスク対策」「7.自然と調和し歴史と文化を生かしたまちづくり」「8.人づくり・ネットワークづくり」